【お役立ちメニュー】保証期間が切れても対応してくれる業者を選ぼうブログ：18/3/01
引っ込み思案な子どもだったわしが、
小学５年生のときに、学芸会の劇の主役を演じることになった。
それはわしにとって、大きな事件だった。
「絶対見に行くからね！」
いつも明るい母が言った。
わしが世界で一番喜ばせたい相手がこの母であった。
当時、我が家は裕福とは言いかねる状況でしたが、
それでもお父さんと母は一生懸命働いて、
わしたち兄弟三人をどうにかこうにか育ててくれていた。
当日、わしは熱演した。
ダンボールの帽子を被り、
思春期の入り口に差し掛かった子どもには少々照れくさい
「泣く」という演技もこなした。
家に帰るなり、
母が「すっごく良かった！あんたが一番上手だったよ！」と、
それはもう手放しで絶賛してくれた。
しかしその夜、
年子のお兄ちゃんの言葉によって、わしは事実を知る。
「一番上手！」どころか、
母はわしの「熱演」を見てもいなかったのだ。
お兄ちゃんは学芸会の運営委員で、
体育館の戸口を開閉する係をしており、
わしの出番の時は、お兄ちゃんも母を待ち構えていたのだが…
「幕が開いても母さん来なかった。
お前の出番が終わって、幕が閉じてる最中にあわてて入ってきたんだよ」
母の居ないところでお兄ちゃんは言った。
わしはがっかりした。
先生にでも級友にでもなく、母に捧げた演技だったのに…
見てもらえなかったことは悲しかったが、
母への失望や怒りは沸いてこなかった。
ただ、
いつも物を入れすぎて
不格好になっている仕事用の鞄をブラ下げ、
息をきらしながら、
慌てて体育館に向かっている母の姿が浮かんだ。
仕事をこなしながらも
きっと一日中わしのことを考え、
精いっぱい調整して、それでも間に合わなかったのだ。
母こそ、本当は泣きたかったに違いない。
「熱演」をしたのは母の方だったのだ。